お寺に泊まることができる「宿坊」とは、もともと僧侶や参拝者のための宿泊施設。現在は一般の旅行者も利用できるようになっており、京都を中心として日本文化を深く知りたい外国人観光客からも徐々に人気を集めています。
ですが、宿坊へは日本人でさえ宿泊したことがないという場合がほとんど。外国人にとっては、言葉の壁に加え、日本の仏教やマナーへの基礎知識不足などから、さらにハードルの高い体験となっています。
そこで今回は、長野県にある信州善光寺の全部で39ある宿坊の中でも、外国人の受け入れを行っている「淵之坊(ふちのぼう)」さんに取材を依頼。現地で撮影した写真や動画も交えながら、滞在レポートをお届けします。
宿坊「淵之坊」とは?信州善光寺の境内に泊まることができる施設
善光寺の参道に軒を連ねる淵之坊は、古くより「縁起堂(えんぎどう)」と称されてきました。
「縁起」とは、お寺の誕生や歴史的な物語のこと。淵之坊は、善光寺の成り立ちを人々に語り継ぐ特別な役割を担ってきた宿坊です。
一歩足を踏み入れると、長い年月が育んだ静謐な空気と、歴史の深さを感じることができます。
宿坊にはそれぞれに御本尊があり住職がいます。淵之坊にも阿弥陀如来(あみだにょらい)像が安置されていますので、到着したらまずはご本尊を拝ませてもらいましょう。
正座して静かに手を合わせて、心の中でご挨拶します。神社ではないので、手をパンパンと打たないようご注意を。
外国人旅行者も安心!淵之坊の客室・設備と快適なホスピタリティ
「宿坊は修行の場で、宿泊施設としては不便なのでは?」という心配は不要です。淵之坊は、伝統を守りながらも、現代の旅行者が快適に過ごせる設備が整っています。
プライバシーを守る個室
全7室の落ち着いた和室で、自分の時間を大切にできます。伝統的な宿坊では、襖や障子で仕切られたのみで鍵付きの個室でない場合もありますが、こちらでは鍵付き個室が用意されています。
特別室A
淵之坊の客室の中では唯一、善光寺の表参道に面したお部屋。畳の空間でありながら机と椅子で快適に過ごせます。居室の隣には襖を隔てた寝室に、あらかじめ布団が敷かれていました。窓からの眺めも良く、周囲の建物や善光寺の背後に広がる山の景色も見渡せます。
特別室C
こちらも寝室と居室が別になっており、ゆったりできるお部屋です。
この他に、比較的コンパクトな和室もあります。
お部屋のアメニティ
- 浴衣
- 歯ブラシ
- 手ぬぐい
- テレビ
- エアコン
- ポット(お茶付)
- ペットボトルの水1本
お部屋のアメニティも必要なものが揃っています。日本の旅館と同じように、寝間着として浴衣が利用可能です。
バリアフリー対応
館内には、足の不自由な方向けにエレベーターが完備されています。また、畳の上で寝るのが不慣れな方にはベッドの用意も可能です(数に限りあり)。
2種類のお風呂は貸切利用もOK
淵之坊には、トルマリンと麦飯石の2種類の浴槽のお風呂があります。天然石の力を活かしたまろやかな湯ざわりで、身体の芯からじんわりと温まる心地よいひとときを楽しめるのが魅力です。
通常は男女別で共同浴場として使用されますが、事前に相談すれば貸切利用も可能。プライバシーを重視する海外ゲストにも好評です。客室にはお風呂やシャワーは用意されていません。
お風呂のアメニティ
- ボディソープ
- シャンプー
- コンディショナー
- フェイスソープ
- ドライヤー
- バスタオル
- カミソリ
- くし
- シャワーキャップ
- 綿棒
- ティッシュ
脱衣所や浴場にアメニティが揃っているほか、脱衣所のロッカーには鍵がかかるので、他のお客さんと一緒に利用する際も安心です。
本格的な「精進料理」を堪能。信州の旬を味わう贅沢な懐石
淵之坊に泊まる楽しみのひとつが、地元信州の素材をふんだんに使った精進料理(しょうじんりょうり)です。
精進料理とは、仏教の戒律に基づき、肉や魚介類、古来より煩悩を生じるとされてきたニラ、ニンニク、ネギ、タマネギ、ラッキョウ(五葷)も使わず、野菜や穀物、海藻、豆類などの植物性食材のみで作られる料理のこと。
生き物の殺生を避け、煩悩を刺激しないことを目的とし、もとは修行の一環として捉えられていました。
旬の食材を大切にし、五味(甘・酸・辛・苦・塩)、五色(赤・青・黄・白・黒)、五法(生・煮る・蒸す・揚げる・炒める)のバランスを考え、食材を無駄なく使い切るのが特徴。この「五味五色五法」にも意識しながら食べてみると、より文化としての味わいも深まります。
淵之坊の精進料理も彩り豊かでヘルシーです。
職人の技が光る繊細な盛り付けは、まるでアートのよう。訪問時は10月だったので、秋の味覚や彩りで溢れていました。
動物性食材を使用しない精進料理は、究極のヘルシー食としても注目されています。ヴィーガンやベジタリアンの方でも、安心して日本伝統のフルコースを楽しめるのも魅力のひとつです。
また、お食事はテーブル席のため、長時間正座をする必要がありません。伝統を味わいつつも、体への負担なく食事を堪能できます。
料理の献立や、簡単な滞在の案内が書かれた紙は、英語版が用意されています。
究極のマインドフルネス。写経体験など淵之坊で体験できること
滞在中は、日本の精神文化を深く体験できるプログラムもおすすめです。
写経・写仏体験
今回エディターが体験させていただいたのは、写経体験。お経が書かれたお手本の紙の上に、薄い半紙が置かれており、その上を筆ペンでなぞっていきます。一文字ずつ無心でお経を書き写す時間は、自分自身を見つめ直す静かなマインドフルネス。書き終えた後の達成感と心の静寂は、何物にも代えがたい経験です。
また、写仏体験は写経と同様に、仏さまの絵が描かれたお手本の紙の上に薄い紙を置き、その絵をなぞって描いていくもの。漢字が苦手な方には、写仏がおすすめです。
- 写経・写仏:2,000円 ※淵之坊宿泊者限定
お絵解き
お絵解きとは、かつて文字が読めない時代の人々にも仏教の教えを分かりやすく伝えるため、大きな「絵図」を指し示しながら、その物語を解説することです。
こちらは 「縁起堂」ならではの伝統。絵を見ながら善光寺のはじまりの物語を聴く時間は、知的好奇心を満たしてくれます。ただし、こちらは日本語での対応のみです。
真ん中に描かれた善光寺の御本尊の周りには、まるで漫画のように善光寺がこの地に拓かれるまでの物語が描かれています。こちらの絵は、江戸時代に描かれたものそのものだそうで、その鮮やかな色合いや精緻な筆遣いを間近で見るだけでも貴重な体験です。
- 法話お絵とき料(30分。飲み物付き):大人1,000円、子ども(小中学生)500円 ※5名~。要事前予約。日本語のみ
お朝事(おあさじ)への参拝
翌朝には善光寺本堂での毎朝行われる「お朝事」に参拝することができます。は、「お朝事」とは、日の出とともに僧侶が集まり、仏を拝む神聖な朝の儀式のこと。 まだ一般の参拝客が少ない静寂に包まれた境内を歩き、本堂に響く読経を聴く体験は、宿坊に宿泊した人だけが味わえる特別な特権です。
お朝事の行程
早朝、淵之坊を出発(夏期5:30,冬季7:00)→仁王門→ 三門(お数珠頂戴※1)→善光寺本堂(お朝事参拝など・お戒壇めぐり※2)→淵之坊へ帰着→朝食
- ※1:善光寺を代表する住職が、参拝者の幸せを願って、手にしているお数珠で頭をなでてくださいます。
- ※2:善光寺のご本尊・一光三尊阿弥陀如来(いっこうさんぞんあみだにょらい)は秘仏のため、通常見ることはできません。ご本尊をお祀りしてある本堂の下の暗闇の回廊を巡り、ご本尊の真下にかかる鍵「極楽のお錠前」に触れることで、仏様とご縁を結ぶというのがお戒壇巡りです。この極楽のお錠前に触れることができた人は、必ず極楽往生できると信仰されています。
旅の思い出を持ち帰る。御朱印やお土産
淵之坊では、ここでしか手に入らない御朱印やお土産もあります。
御朱印
御朱印は、淵之坊のものが2種類。また、善光寺の代表的な御朱印も合わせて、3種類が受けられます。
お土産品
建物に入ってすぐのところにある売り場では、お守りや御朱印帳、お数珠などの授与品だけではなく、なんと淵之坊オリジナルのお土産品も。お菓子や醤油、そして長野の名産品である八幡屋礒五郎七味唐辛子のオリジナル缶など、気軽に購入できる商品が揃っており、参拝の思い出の品にぴったりです。
混雑を避けてゆっくり参拝。旅行者に今「信州善光寺」をおすすめする理由
現在、京都など日本の主要観光地は多くの人で賑わっていますが、信州善光寺は欧米の旅行者に比べ、アジア圏からの旅行者がまだ少なく、比較的静かな時間が流れていました。
「京都のように日本の伝統文化を感じられる観光地へ行きたいけれど、人混みは避けたい」という賢明な旅行者にとって、今こそが善光寺を訪れる絶好のタイミング。淵之坊のスタッフの温かいホスピタリティに触れながら、本当の日本文化に浸ることができます。
心身をリセットする、特別な1泊を
信州善光寺の宿坊「淵之坊」での滞在は単なる宿泊ではなく、自分を整える旅そのものです。歴史ある境内で過ごす静かな夜と、身体に優しい精進料理。次の日本旅行では、喧騒を離れて心の洗濯をしてみませんか?
善光寺 宿坊 淵之坊(ふちのぼう)
- 住所:長野県長野市元善町462
- アクセス:長野駅から善光寺口1番バス「善光寺方面行き」で10分、善光寺大門から徒歩1分
- 料金:1泊2食付 16,500円(税込)〜
- 予約:宿泊・食事ともに3日前までに要予約
- 公式サイト: https://fuchinobo.or.jp/(英語・韓国語・繁体字・簡体字あり)
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