週休3日制に部活動の廃止も?進化する日本の働き方改革とホワイト企業の実例

「日本の企業は残業が多い」「日本人は働きすぎ」というイメージは海外にも広く浸透していますが、近年、日本国内では「働き方改革」が進んでいることをご存知でしょうか。日本の 「働き方改革」は、単なるスローガンにとどまらず、現実の制度や働き方を大きく変えつつあります。企業では週休3日制をはじめとした柔軟な労働制度が広がり、教育現場では卒業文集や部活動などへの教員の業務について見直しが進んでいるといった話を耳にしたことがある人もいるでしょう。

また、東京都では企業のライフ・ワーク・バランス推進に関する取り組みを評価し、認定する「東京ライフ・ワーク・バランス認定企業制度」を実施するなど、官民双方で働き方改革の動きが進んでいます。

本記事では、進化を続ける日本の働き方改革の現在地と、ホワイト企業の実例や取材内容を交えながら紹介します。

働き方改革とは?日本の労働環境は変わったのか?

「働き方改革」とは、労働環境の質や生産性の向上を目指し、長時間労働の是正や、柔軟な働き方の推進、女性や高齢者など多様な人材の活用を促す国や企業の取り組みのことです。2019年4月1日から、「働き方改革関連法」が順次施行され、様々な施策がなされてきました。具体的には、時間外労働の上限規制や、年次有給休暇の取得義務化、正規と非正規など雇用形態に関わらない公正な待遇の確保、テレワークの普及促進、育児・介護休業制度の充実、副業解禁などが主な施策として挙げられます。

働き方改革が進められるようになったのは、生産年齢人口の減少が背景にあります。少子高齢化が進んでいる日本では、働き手となる労働人口が減少の一途をたどっており、このままでは国全体の生産力の低下そして国力の低下に繋がってしまうとして、それを防ぐために国が本格的に改革に乗り出したという経緯があります。

働き手が少なくなっていることから、労働者が働きやすい環境に整える取り組みは、企業が必要な人材を確保し定着させていくためにも必要なことです。そのため、法律で定められている基準を超えて、積極的に働き方改革に取り組んでいる企業は少なくありません。そのような取り組みである「週休3日制」と「学校の卒業文集の廃止」の2つについて、次の章で詳しくみていきます。

働き方改革の具体例1:週休3日制(企業・自治体)

週休3日制とは

週休3日制とは、1週間あたりの休みを3日取得できる制度のことです。日本の企業の多くは法律で定められている労働時間の規定に従って週休2日制が取られています。

これに対し、週休3日制は法律による義務はなく、採用するかどうかはそれぞれの企業が自由に選択できるものです。近年では大企業を中心に、週休3日制を試験的に導入する企業が増えつつあるようです。

週休3日制の基本概念は「選択制」。希望する従業員を対象に週休3日制を適用するという概念です。先述のとおり、法律による導入義務はないうえ、試験的に導入している企業が多いことから、すべての従業員を対象とするケースは少ないのかもしれませんね。

週休3日制の運用方法は、「給与維持型」「給与減額型」「労働時間維持型」の3つです。

「給与維持型」は、休日を1日増やして合計の労働時間は減らしつつも、給与は維持するという運用方法です。労働時間が短くなる分、従業員は生産性を上げる必要があります。一方「給与減額型」は、休日が増える分、労働時間が減少し給与も減少する、という運用方法です。休日が増えるメリットはあるものの、給与が減ってしまうとなると、週休3日制を採用するかどうかは各従業員によって希望が分かれそうですね。「労働時間維持型」は休日を1日分増やしながらもトータルの労働時間は変えないという運用方法です。週4日の労働時間を少しずつ長くして1日分の休みを捻出するというイメージです。

週休3日制を取り入れた企業・自治体の事例

週休3日にするかどうかを選べる選択的週休3日制は、ユニクロで知られるファーストリテイリング、ヤフー、東芝、みずほフィナンシャルグループなどの企業で導入されています。自治体では、茨城県、千葉県、兵庫県、奈良県、大阪府などが代表的で、2025年4月から東京都でも選択的週休3日制が導入されました。

週休3日制のメリットとデメリット

週休3日制のメリットは主に次のとおりです。

  • ワークライフバランスが向上する
  • 生産性の向上につながる
  • 離職率の低下することで人材の確保につながる

育児や介護との両立はもちろん、趣味を楽しみたい人もプライベートの時間を確保しやすくなります。増えた休日の時間を資格の勉強などスキルアップや、副業による収入の増加も目指せるでしょう。ワークライフバランンスが充実していることで、仕事へのモチベーションも維持できます。

日本マイクロソフトは2019年に試験的に週休3日制を導入したところ、労働生産性が40%上がったと発表しています。モチベーションが高く維持された状態で、限られた時間内で仕事を終わらせようとするため、業務効率化につながったのかもしれませんね。また、柔軟な働き方ができることで従業員の満足度が向上し、離職率の低下も期待できます。優秀な人材の確保にもつながりそうですね。

一方で、週休3日制にはデメリットも。

  • 給与減少の可能性がある
  • 1日あたりの労働時間増加により負担が増える
  • 取引先との連携や業務調整の課題

先述の「給与減額型」の場合、週4日勤務で収入が8割に減ってしまうケースもあります。また、「労働時間維持型」の場合は、1日あたりの労働時間が長くなるので、仕事の日の負担は当然大きくなります。さらに、取引先が週休2日制の場合は、取引先との連携が取りづらく、ビジネス機会の損失が発生するリスクが考えられます。

働き方改革の具体例2:卒業文集や部活動の廃止(教員)

卒業文集や部活動が一部の学校で廃止されている理由とは

日本の小学校や中学校では、卒業を記念して「卒業文集」を作成する文化があります。「卒業文集」とは、児童生徒一人ひとりが将来の夢や学校生活の思い出などをテーマに作文を書き、それを一冊の文集にまとめたものです。文集は、「卒業アルバム」と同様に卒業生の人数分刷り、一人一冊ずつ持ち帰ります。卒業式の日には、卒業文集の空いているページに、特に仲良しの友達同士で手書きのメッセージを書き合うのも定番。卒業生にとって学校生活の思い出がぎゅっと詰まった一冊になるのです。

しかし、そんな卒業文集を廃止する学校が増えつつあるよう。文集作成は学校の教員が主導となり、授業時間を使って行われるのが基本でしたが、作文の添削などの教員の業務負担が大きいことや、授業時間の確保が難しいことなどが卒業文集廃止の理由とされています。

学校主導ではなく、保護者の主導で卒業文集に代わるものを作っているという学校もあります。東京都のある公立学校では、学校主導での卒業文集の作成は教員の働き方改革の一環として廃止となりました。それを受けてPTAの「卒対」(卒業対策委員会)の活動として、文集の代わりに子ども達自筆のプロフィール帳の作成に取り組むことになったそうです。作成の負担が一部の保護者に偏ってしまうという懸念はあるかもしれませんが、教員の負担を減らしつつ、従来の形にとらわれず、子ども達の思い出は残していくという点で、保護者主導の取り組みは有効な手段となっていくかもしれません。

部活動についても、教員は顧問として指導、監督するという業務負担が大きいため、廃止する学校もでてきています。近年、教員の長時間労働に改善を求める声は多いものの、教育現場での働き方改革は一般企業よりも進みにくいという実情があります。

働き方改革の具体例3:ホワイト企業への認定や表彰(東京都・一般社団法人など)

自治体や団体などで、いわゆるホワイト企業に対して一定の基準を設け、認定や表彰を行う動きも出ています。

東京ライフ・ワーク・バランス認定企業「株式会社パーキングマーケット」にインタビュー

中でも今回は、日本全国で駐車場(PMCマンスリーパーキング)や駐輪場(ニリーン)等の事業を展開し、2024年度の東京ライフ・ワーク・バランス認定企業として東京都から大賞を受賞した株式会社パーキングマーケットにインタビュー取材を行いました。

株式会社パーキングマーケットでは、1分単位でのフレックスタイム制と在宅勤務制度が広く導入されており、ほぼ全社員が活用しています。これらの制度により、時間外勤務(残業)ゼロの達成や有給休暇の効果的な利用が実現されているとのこと。

「柔軟な働き方を実現するには、業務効率の確保が必要不可欠です。現状の制度がゴールだとは考えておらず、さらに業務効率を高めていくことで、社員一人ひとりの自己投資に費やせる時間をさらに増やしていきたいと考えています。そんな社員の成長がさらなる業務効率の向上にまた繋がりますので、この良いサイクルを回しながら継続的な改善に取り組んでいきます。」と岡本取締役は語ってくれました。

ホワイト企業とは単に労働時間が短い会社ということではなく、社員の業務効率改善の意識と生産性の高い企業であることがうかがえます。

その他のホワイト企業認定や表彰とは

  • ホワイト企業認定一般社団法人日本次世代企業普及機構が、企業のホワイト化を総合的に評価している制度のこと。家族や社会に応援される、次世代に残していきたい企業かどうかを評価し、認定を与えています。2025年4月までに557社を認定。また、その中から特に注目すべき企業は「ホワイト企業アワード」に選出されます。
  • ホワイト企業大賞:ホワイト企業大賞企画委員会が企画・運営している表彰制度。社員の幸せと働きがい、社会への貢献を大切にしている企業をホワイト企業と定義し、実際にはたいている人たちへのアンケート調査をもとに選考されています。

ブラック企業とホワイト企業の見分け方

働き方改革への各企業や自治体などの取り組みについて、具体的にご紹介しましたが、そもそもブラック企業とホワイト企業はどのように見分ければよいのでしょうか。それぞれの特徴をみていきましょう。

ブラック企業の特徴

ブラック企業の特徴は主に次の通りです。

  • 従業員に対して極端な長時間労働やノルマを課す
  • 賃金不払残業がある
  • いじめや嫌がらせ等のパワーハラスメントが横行する等、企業全体のコンプライアンス意識が低い
  • 求人で「高収入」「未経験歓迎」と過剰にアピールする
  • 採用時に合意した以上のシフトを入れる
  • 退職を申し出た際に「ノルマ」や「罰金」を理由に辞めさせない

入社前に気づくことのできる特徴は少ないかもしれませんが、常に求人を出している企業は、離職率が高い可能性があるので注意するといいかもしれません。

ホワイト企業の特徴

ホワイト企業の特徴は主に下記のような感じです。

  • 残業時間が短く、有給休暇の取得率が高い
  • 福利厚生が充実し、給与が適正・安定している
  • 長く働ける環境が整っており、定着率が高い
  • 採用条件と実態に乖離がない
  • オフィス環境が整っており、従業員の心理的、身体的ケア体制が整っている

ホワイト企業では働き方改革が進み、ワークライフバランスの重視も尊重されているようです。また、ホワイト企業は人員確保のために求人内容を偽る必要がないので、採用条件と実態に乖離がないよう。入社前に提示された条件通りの就労が与えられます。

求人情報の見極め方

入社前にホワイト企業かどうかをしっかりと確かめられると安心ですよね。求人情報からの見極め方をご紹介します。

まず、募集要項が明確かどうかを確かめましょう。給与や労働時間、休日などの記載が詳細かつ明確かどうか、確認してください。また、面接で「働き方」について質問した際にしっかりと回答するかどうかも大事なポイント。明言を避けたり、はぐらかしたりするなら、少し考えた方がいいかもしれません。

企業の口コミサイトでの評判も参考にするといいですね。ただ、口コミサイトの情報すべてが正しいとは限らないので、鵜呑みにはしない方がよさそうです。

日本で働きたい外国人求職者へのアドバイス

FUN! JAPANでも多くの外国人が働いていますが、最後に、日本で仕事を得たいと考えている外国の方へのアドバイスです。

日本で仕事を探す際には、ハローワークの利用がおすすめです。ハローワークでは、日本で就労可能な在留資格を持ち、日本で働きたい外国人に対して、職業相談や職業紹介を行っています。外国人雇用サービスコーナー等を設置し、通訳を用意しているハローワークもあります。日本語が話せない人は、このようなコーナーがあるハローワークを訪ねるのがいいでしょう。

日本で働くにあたり、日本の労働基準法関連法令の基礎知識を押さえておくといいですよ。

・国籍を理由とする差別的取り扱いの禁止

出身国の労働条件等が日本のものより低いことを理由に差別的扱いをすることは禁止されています。

・時間外、休日労働及び深夜労働の割増賃金

法定の労働時間を超える労働(残業)に対しては、通常の労働時間または労働日の賃金の25%以上、法定の休日の労働については35%以上の割増賃金が支払われます。

・年次有給休暇

6カ月間勤務し、前労働日の8割以上出勤した労働者には、年次有給休暇が与えられます。

企業の外国人採用実績は、企業の公式サイトまたは採用サイトで確認しましょう。多言語表示対応しているサイトも少なくないので、言語表示を切り替えて確認するといいですね 。

日本の働き方改革はこれからもっと進む?

日本の働き方改革は、週休3日制のような柔軟な勤務制度の導入や、教育現場での業務負担軽減、ホワイト企業の積極的な認定や表彰など、さまざまな形で進められています。とはいえ、中には改革に逆行するようなブラック企業の存在も依然として見られます。

だからこそ、求職者や働き手自身が「どのような企業が健全なのか」を見極める視点を持つことが大切です。本記事で紹介したような、働き方改革を本気で進める企業や自治体の取り組みを参考に、健全な労働環境を選び取るための情報収集に心がけましょう。

参考文献:

厚生労働省『働き方改革~一億総活躍社会の実現に向けて~』 https://www.mhlw.go.jp/content/000335765.pdf

ワークフロー総研『週休3日制とは?メリット・デメリットや導入企業の事例を解説!』,株式会社エイトレッド https://www.atled.jp/wfl/article/38668/

BBC NEWS JAPAN『日本マイクロソフト、週休3日で「生産性向上」 試験結果を発表』 https://www.bbc.com/japanese/50297893.amp

ホワイト財団公式ホームページ https://jws-japan.or.jp/recognition/

京都新卒応援ハローワーク『ブラック企業について』 https://jsite.mhlw.go.jp/nisizinkarasumaoike-kyoto-plaza/home/shinsotsu/kyu-shoku/kosokoso_00002.html

マネーフォワードクラウド『ホワイト企業の特徴とは?見分け方やランキングからは分からないこと』,株式会社マネーフォワード https://biz.moneyforward.com/payroll/basic/66722/

東京外国人雇用サービスセンター『日本で働ける外国人・働けない外国人』 https://jsite.mhlw.go.jp/tokyo-foreigner/tenshokusha/nihon_hataraku_gaikokujin/spec_1a.html

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