小泉八雲(ラフカディオ・ハーン)の『怪談(Kwaidan)』:必読の日本の怖い話ベスト10と、妻セツとの愛の物語

出典:野口米次郎 著『小泉八雲伝』,富書店,昭和21. 国立国会図書館デジタルコレクション (参照 2025-12-01)

現在、日本で放送中のNHK朝の連続テレビ小説『ばけばけ』。その主人公のモデルこそ、ギリシャに生まれ、アイルランドで育ちながら、日本の文化と心に誰よりも深く恋をした作家、小泉八雲(ラフカディオ・ハーン)です。

彼は、開国間もない失われゆく日本の美しい姿を世界に伝え、特に日本の「怪談」を文学作品として昇華させたことで知られています。しかし、彼の創作活動の裏には、日本人女性である妻セツとの国境と文化を越えた、深くロマンチックな愛の物語がありました。

この記事では、朝ドラをきっかけに今再び注目される小泉八雲の生涯を辿り、彼と妻セツが共同で紡いだ文学作品『怪談(Kwaidan)』などの中から、初心者から通まで唸らせる厳選ベスト10をご紹介します。最後には、物語の舞台となった美しい聖地巡礼スポットもご紹介します。

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小泉八雲/ラフカディオ・ハーンは何をした人?

小泉八雲は日本に帰化して日本文化を世界に紹介した人物

ラフカディオ・ハーンは1890年に来日し、日本の美しさに心底魅了されました。彼は教師として島根県・松江や熊本などで教鞭を執りながら、異国人の視点から見た日本の情緒や風俗を精力的に執筆します。

その後、1896年に日本人女性の小泉セツと正式に結婚し、日本に帰化して小泉八雲(こいずみやくも)と名乗るようになりました。八雲は、文明開化の波によって失われつつあった日本の古き良き文化、特に「見えないものへの畏敬の念」を、彼の流麗な筆致で世界に伝え続けた、日本文化の最も偉大な「代弁者」の一人です。

小泉八雲と妻セツ:怪談は2人の「愛の言葉」だった

国境を越えた運命の出会いと結婚

八雲とセツの出会いは、八雲が松江で教師をしていた頃。セツは武家の娘という誇りを持ちながらも、時代と共に生活は苦しくなっていました。国籍も文化的背景も全く違う2人でしたが、互いの心根に惹かれ合い、当時の日本では珍しい国際結婚を果たします。

言葉の壁を越えた「ヘルン言葉」とは?

当時の2人の間には言葉の大きな壁がありました。セツは英語が分からず、八雲の日本語も限られていたため、2人は独自の簡易的な日本語で会話しました。これが後に「ヘルン言葉」と呼ばれる、愛情深い夫婦間の共通言語です。この言葉によって多くの怪談作品が生まれました。

『怪談(Kwaidan)』は2人の共同作業だった真実

セツは、子守唄や家伝、近所の噂話に至るまで、膨大な数の日本の昔話や幽霊話を記憶していました。夜、セツはろうそくの灯りの下で、身振り手振りを交えながら、それらの物語を語り聞かせたのだとか。

セツは単なる語り部ではなく、細部にいたるまでアドバイスを行いました。八雲は、その語りを逃すまいと必死にメモを取り、西洋文学の手法で洗練させ、世界に通用する芸術作品に昇華させたのです。

『怪談』は、単なるホラー小説ではなく、「夫の才能を信じた妻」と「妻の国の文化を愛した夫」の国境を越えた愛の共同作業だったといえます。

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【決定版】小泉八雲の『怪談 (Kwaidan)』おすすめベスト10

小泉八雲の怪談の中でも特に有名な3作を含むおすすめの話を10作品ご紹介します。

カテゴリー1: 【絶対定番】世界が震えた“3大傑作”

雪女

雪の夜に現れる、息を凍らせるほど美しい女の妖怪の話。男に「私を見たことを誰にも言ってはならない」と約束させますが、破られた約束は悲劇を生みます。

耳なし芳一

平家の怨霊に呼ばれ、夜な夜な琵琶を弾く盲目の琵琶法師・芳一(ほういち)。全身にお経を書くことによって霊から身を守ろうとしますが、お経を書き残された「耳」だけが怨霊に奪われるという強烈な世界観に、筆者も幼い頃震えあがりました。

むじな

東京・紀の国坂で遭遇した女性に話しかけると、顔に目鼻がない「のっぺらぼう」だった...!短いながらも、読者の予想を裏切る衝撃的な結末が待っています。

カテゴリー2: 【愛と涙】切なくて泣ける“愛の物語”

青柳の話

ある柳の木の精に心を惹かれた若侍と、その木から現れた女性の悲恋。『鶴の恩返し 』のように、日本の昔話には人間と人外の者との悲恋のストーリーが多く見られ、似たストーリーが日本各地に残されています。

おしどり

猟師に撃たれたオシドリの夫を想い、妻のオシドリが悲嘆に暮れます。ちなみに日本では、「おしどり夫婦」という言葉があり、仲の良い夫婦のことをいつも番で行動するおしどりに見立てた表現です。

乳母桜

自分の命と引き換えに子どもを守った乳母。その魂はお寺の桜に宿り、春になると美しい花を咲かせます。

乳母とは、かつての日本で、主に高貴な身分の子どもを養育する女性のこと。単なる世話役ではなく、子どもの成長に深く関わり、時には母親代わりとなる重要な存在でした。

日本的な献身の美を描く物語です。

カテゴリー3: 【ミステリー】不思議で哲学的な“奇妙な世界”

安芸之助の夢

午睡中に蟻の国の王となって一生を過ごした男。目覚めると全てが夢でしたが、現実と夢の境界が曖昧になる、哲学的な問いを投げかける幻想譚です。

茶碗の中

お茶を飲もうとした武士が、茶碗の中に現れた自分ではない別の男の顔を飲みこんでしまいます。その後、四方から男の仲間が襲ってきますが...。物語が唐突に中断され、読者の想像力に恐怖の結末を委ねる実験的な傑作です。

こちらは『怪談 (Kwaidan)』ではなく、1902年に出版した怪奇文学作品集『骨董』に収録されています。

カテゴリー4: 【妖怪・アクションバトル】ガチで怖い&カッコいい

ろくろ首

元武士の僧侶 vs 5つの空飛ぶ首の迫力のバトルが描かれます。日本の妖怪「ろくろ首」の伝承を元に、八雲はアクションホラーに仕立て上げました。日本の怪談では「経文(きょうもん)」や「真言(しんごん)」(いずれも仏教で使われる言葉)が霊的バリアになる場面が多く見られ、言霊の文化的土壌を感じられます。

食人鬼(じきにんき)

死人の肉を喰らう鬼・食人鬼。その正体は、生前に私利私欲に走った僧侶だったという、仏教的な輪廻転生と「業(ごう)」の恐ろしさをテーマにした、ハードなホラーです。

【ばけばけ聖地巡礼】小泉八雲とセツ、2人の愛と怪談の舞台を旅する

神話の国、島根県・松江市

小泉八雲記念館 写真提供:小泉八雲記念館

島根県の松江は八雲がセツと出会い、最も愛した町であり、「怪談のふるさと」と呼ばれています。

  • 小泉八雲旧居と小泉八雲記念館:2人が暮らした武家屋敷や、八雲の遺品が展示される記念館は必訪のスポットです。

👉小泉八雲旧居の公式サイトはこちら (日本語と英語あり)

👉小泉八雲記念館の公式サイトはこちら (日本語と英語あり)

  • 宍道湖(しんじこ)や松江城: 物語のインスピレーションの源となった、情緒あふれる風景が残されています。神話の国としても知られる島根県は、怪談の世界観に浸るのに最適です。

👉宍道湖の詳細はこちら (多言語あり)

👉松江城の公式サイトはこちら (日本語と英語あり)

晩年を過ごした東京都新宿区、文京区

八雲が晩年を過ごし、その魂が眠る東京にもゆかりの地があります。

  • 小泉八雲終焉の地・旧居跡: 文京区に旧居跡が残されています。
  • 雑司ヶ谷霊園: 小泉八雲とセツ夫妻の墓所。八雲が愛した日本の風景の一つです。

👉小泉八雲終焉の地の詳細はこちら (多言語あり)

👉小泉八雲旧居跡の詳細はこちら (多言語あり)

👉雑司ヶ谷霊園の公式サイトはこちら

日本の怪談は日本文化の「見えないもの」への敬意

八雲は日本の「お化け」を怖がるだけでなく、そこに宿る「人の心」や「自然への敬意」を見出しました。彼の作品は、単なるホラーではなく、「日本人の精神」を伝える貴重な文化遺産です。

日本のNHKで放送されている朝ドラ「ばけばけ」で2人の物語を追体験しましょう。そして、日本に来た際は、ぜひ八雲の本を持って聖地を訪れ、彼らが愛した日本文化を体感してみてください。

参考文献:

NHK出版,ムック『ドラマ人物伝 小泉八雲とセツ: 「怪談」が結んだ運命のふたり(教養・文化シリーズ)』, 2025年09月22日発行(参照日:2025/12/1)

小泉八雲記念館『小泉八雲の生涯』(参照日:2025/12/1)

ラフカディオ・ハーン著,円城塔訳,角川文庫『怪談』(参照日:2025/12/1)

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