オーバーツーリズムとは?現状・事例・対策を解説

オーバーツーリズムとは?現状・事例・対策を解説

近年、日本の観光地はかつてないほどの活況を呈しています。美しい自然、豊かな文化、そして独自の食体験を求めて、世界中から多くの旅行者が訪れていますが、その一方で「オーバーツーリズム(観光公害)」という言葉が頻繁に聞かれるようになりました。

本記事では、日本のオーバーツーリズムの現状とそれによる影響について解説し、具体的な事例と対策、そして観光開発と環境保全を両立するヒントを深く探ります。

日本におけるオーバーツーリズムの現状

日本におけるオーバーツーリズムの現状

2025年、訪日外国人旅行者数は過去最高を更新?

新型コロナウイルス感染症の水際対策が大幅に緩和されて以降、訪日外国人旅行者数が急速な回復を見せています。国土交通省が公開したデータ(※)によると、2025年1月の訪日外国人旅行者数は約378万人(2024年比41%増)となり、単月として過去最高となりました。

※出典:「観光の現状について」

また、2025年における訪日外国人の旅行動向について日本国内最大手の旅行代理店JTBも「前年と比べ伸び率がゆるやかになったものの、過去最高となった2024年をさらに上回る」との見解を示しています。

日本人の「国内観光地離れ」が目立つように

訪日外国人数が激増した一方、一部の日本人旅行者の間では人気の観光地を避ける傾向も指摘されています。その背景には外国人観光客の急増による混雑、宿泊費の高騰、マナー問題による満足度の低下などがあるのかもしれません。かつては気軽に訪れることができた場所が予約困難になったり、静かな環境が失われたりすることで国内旅行者の足が遠のいてしまい、観光地全体のバランスを崩すことが懸念されています。

オーバーツーリズムがもたらす影響とは?

オーバーツーリズムがもたらす影響とは?

オーバーツーリズムは、地域住民の生活環境に悪影響を与えるとともに、文化財や自然などの観光資源の劣化を招きます。

住民生活への影響

交通混雑の慢性化

観光地にアクセスするための公共交通機関(電車、バスなど)は通勤・通学者と観光客で常に満員状態となり、地域住民の日常生活に支障をきたしています。また、レンタカーや観光バスの増加による道路渋滞といった問題も。

騒音問題の発生

夜間における観光客の話し声やスーツケースを引く音、宿泊施設周辺での騒ぎなどが住宅地の静穏を害し、早朝からの観光活動による騒音も問題視されています。

マナー違反の頻発

ゴミのポイ捨て、指定場所以外での喫煙、私有地への無断立ち入り、撮影禁止場所での撮影といったマナー違反は景観を損ねるだけでなく、住民に不快感や不安感を与えています。観光地に隣接する地域では、特に摩擦が生じやすくなっているそう。

観光資源への影響

文化財・遺跡などの損傷

多くの観光客が訪れることで、歴史的建造物や遺跡への物理的な負荷が増大し、一部の心ない行動による直接的な破壊行為も後を絶ちません。

自然環境への破壊

人気の自然景勝地では植生の踏み荒らし、ゴミの不法投棄による水質汚染や野生動物への悪影響、写真撮影のための立ち入り禁止区域への侵入などが問題となっています。

地域格差への影響

一部人気都市への集中と弊害の深刻化

東京京都大阪といったゴールデンルート上に位置する都市や、特定の観光地には観光客が過剰に集中。地元住民の生活や環境への影響が深刻化し、観光関連インフラのキャパシティが限界に近づきつつあります。

地方における観光客誘致の苦労

その一方で、魅力的な観光資源を有しながらも、情報発信力やアクセス面の課題から十分な観光客を呼び込めていない地方も多く存在します。観光による収益が一部地域に偏ることで、地域間の経済格差がさらに拡大する恐れも。

事例から見る 日本のオーバーツーリズム問題

オーバーツーリズムはすでに日本各地で現実の問題として顕在化しており、それぞれの地域で対応に追われていますが、以下に具体的な事例と対策を紹介します。

北海道美瑛町】無断立ち入りと違法駐車

日本のオーバーツーリズム問題:北海道美瑛町

問題点

色とりどりの畑が織りなすパッチワークのように美しい風景で知られる美瑛町では、写真映えを求める観光客による農地への無断立ち入りが深刻な問題となっています。農地は私有地であり、立ち入りは農作物への被害や病害虫、病原菌侵入のリスクを高めることに。また、「白金青い池」、「セブンスターの木」など観光名所の周辺では路上駐車が頻発し、交通の妨げや事故の危険性が指摘されています。

対策

農地への立ち入り禁止を呼びかける多言語対応の看板設置を進めるとともに、観光協会によるパトロールを実施し、マナー向上を啓発。駐車問題に対しては駐車規制を実施し、警備員による誘導体制が整備されています。

神奈川鎌倉市】駅周辺の混雑とゴミの投棄問題

日本のオーバーツーリズム問題:神奈川県鎌倉市

問題点

歴史的な寺社仏閣が多く、都心からのアクセスも良い鎌倉市は国内外から多くの観光客が訪れ、特に週末や大型連休には、駅周辺や主要な観光スポットへ続く道が大変な混雑に見舞われます。また、食べ歩き客などによるゴミのポイ捨ても大きな問題の1つ。

対策

市内における各観光地の概要や混雑状況を確認できる「鎌倉観光混雑マップ」を公開し、観光客に混雑を避けた行動を促しています。ゴミ問題に対しては、食べ歩きなどで出るゴミやを入れられるように「おもてなし袋」を配布し、ゴミの持ち帰りへの協力呼びかけなどを開始。

京都府京都市】公共交通の混雑とマナー違反の深刻化

日本のオーバーツーリズム問題:京都府京都市

問題点

祇園などの花街では、舞妓さんを無許可で執拗に追いかけて撮影する「舞妓パパラッチ」や、私道・私有地への無断立ち入りが後を絶たちません。

また、市民の足でもある市バスは大きな荷物を持った観光客で常に混雑し、地域住民が乗車できない「バス積み残し」も生じています。

対策

私道での無許可撮影禁止などを明記した多言語の看板や張り紙を設置し、違反者には罰金を科す制度を導入する地域が増え、マナー啓発の動画配信なども行われています。

さらに、手ぶら観光を促進するため京都駅を起点に市内宿泊施設を巡回する「HANDS FREE BUS」を運行。市バス車内の混雑緩和を図っています。

山梨県富士河口湖町】後を絶たない駐車違反・道路飛び出し

日本のオーバーツーリズム問題:山梨県富士河口湖町

問題点

コンビニの屋根越しに富士山が撮影できるという特定のスポットに外国人観光客が殺到。多くの人が歩道から車道にあふれて撮影を行い、交通の妨げになるだけでなく、車両との接触事故の危険性が非常に高まっていました。

対策

安全確保のため、問題の場所に富士山を見えなくするように黒い目隠し幕を設置。国内外で大きな話題となりました。現在は柵の設置や横断歩道の再塗装、案内表示の整備により、危険な横断は徐々に改善されつつありますが、観光と住民生活の快適さを両立するように、町は周辺などの対策を検討しています。

オーバーツーリズムの抑制に向けた対策は?

オーバーツーリズムの抑制に向けた対策は?

オーバーツーリズムの問題はすぐに解決できる簡単な方法があるわけではなく、行政機関、観光事業者と地域住民が多角的なアプローチで継続的に取り組む必要があります。

受け入れ環境の整備・増強

インフラ整備の推進

仮設トイレやゴミ箱の増設、無料Wi-Fiスポットの拡充、キャッシュレス決済環境の整備など、基本的なインフラの強化は不可欠です。

手ぶら観光の推進

手荷物の一時預かりサービスや宿泊施設への配送サービスは、公共交通機関の混雑緩和や移動時の快適性向上に繋がります。京都の事例のように、大型荷物を持った観光客専用のバス運行も有効な手段。

交通システムの最適化

公共交通機関の増便や多言語案内の強化、カーシェアリングサービスの導入、観光地周辺の交通規制、リアルタイムで混雑状況を発信するシステムの構築などが求められます。

マナー違反行為の防止

多言語による情報発信の強化

日本の文化・習慣、地域ごとのルールやマナーをウェブサイト、SNS、パンフレット、動画など多様な媒体を通じて多言語で分かりやすく発信することが重要です。

注意喚起と監視体制の強化

悪質なマナー違反や迷惑行為に対しては、防犯カメラの設置やパトロール人員の配置による監視体制を強化し、場合によっては罰則を科すことも検討されます。ただし、あくまで啓発を主とし、旅行者の感情を不必要に害さない配慮が必要。

地方部への誘客推進と観光客の分散化

新たな観光ルートの開発と魅力発信

観光庁が伊勢志摩、瀬戸内エリアなどモデル観光地として選定した11の地域では、それぞれの特色を活かしたコンテンツ造成やプロモーションが集中的に行われ、成功事例の横展開が期待されます。

体験型・滞在型コンテンツの充実

単に名所を巡るだけでなく、その土地ならではの文化体験、食体験、自然体験など、より深く地域と関われる滞在型・体験型コンテンツを充実させることで、地方への関心を高め、滞在時間を延ばすことができます。

「より良い旅行者」になるために:私たち一人ひとりができること

「より良い旅行者」になるために:私たち一人ひとりができること

オーバーツーリズムの問題は、行政や事業者だけの努力では解決できません。私たち旅行者一人ひとりの意識と行動も、観光地の未来を大きく左右します。

オフシーズンの訪問を検討する

気候が穏やかで、混雑も比較的少ないオフシーズンやショルダーシーズンに旅行することで、より快適に観光を楽しめます。人気観光地でも、時期をずらすだけで全く異なる落ち着いた表情を見せてくれることも。

地元の人々の暮らしに最大限配慮する

観光地は、誰かにとっては生活の場。私有地への無断立ち入りや早朝・深夜の騒音、ゴミのポイ捨てなどは絶対に避けましょう。地域住民のプライバシーに配慮し、挨拶を交わすなど、温かいコミュニケーションを心がけることも大切です。

地元のファーマーズマーケットや個人経営の小売店を利用する

大手チェーン店や免税店だけでなく、地域の食材を扱うファーマーズマーケットや個人経営の商店、飲食店などを積極的に利用することで、その土地の経済に直接的に貢献できます。地域の人々との触れ合いも生まれ、より思い出深い旅になるでしょう。

これらの行動は、近年注目されている「サステナブル・ツーリズム(持続可能な観光)」にも通じる考え。環境を守り、文化を尊重し、地域経済に貢献する旅行は、旅行者自身にとってもより豊かで意義深いものとなるはずです。

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