
日本の夏休みは、子どもたちにとってどのような意味を持つのでしょうか?教育研究家である征矢里沙さんに、夏休みの教育的意義とその過ごし方について詳しく解説してもらいました。夏休みは、子どもたちの心身をリフレッシュするだけでなく、家庭や地域での多様な体験を通じて成長するチャンスでもあります。
この記事では、小学生が夏休みを通してどのように成長できるのか、その具体的な方法と教育的な価値についてご紹介します。
日本の夏休みはいつからいつまで?
夏休みの基本期間

日本の小学校で最も長いお休みである「夏休み」。その期間は、一年で最も気温が高くなる7月下旬~8月下旬の学校が多いです。具体的な期間は地域や学校によって異なることもありますが、終わりは8月中で、遅くとも9月には学校が始まることは共通です。
ちなみに、多くの国の学校は「9月」が年度始まりですが、日本では「4月」が年度始まりという、世界的にも珍しい制度。夏休みに年度区切りという意味合いがなく、夏休み明けにクラスや学年が変わらないのも、日本の夏休みの特徴だといえます。
地域や学校による違い
上記の通り、日本国内でも夏休みの期間は地域によって違います。
例えば日本の最北地域の北海道では、夏休みが短く、代わりに冬休みが長くなっています。他の地域でも、夏休み期間は30日間~42日間といったばらつきがあります。また同じ地域でも、各学校の方針によって微妙に期間が違う場合もあります。
夏休みという制度が生まれた理由
年度区切りではないにも関わらず、日本の学校に夏休みがある最も大きな理由は、「暑さ」です。
近年は教室にもエアコンが設置されているものの、暑いと勉強に集中できないし、体育での熱中症対策も大変。近年の日本の夏は30〜40度ほどの気温となり、湿度も70%以上。真夏の暑さを避けるために休校にするというのが、基本的な考え方です。
教育的に見る、日本の夏休みの意義
子どもの心と身体をリフレッシュする時間

暑さが大きな理由とはいえ、長期休みを挟むには、実はちょうどいいタイミング。4月の年度始めから数えると、約半分の区切りが夏休みの時期だからです。このタイミングで子どもの心と体をリフレッシュして、また学びに向かうためにも、夏休みは大切だと考えられています。
夏休みは家庭や地域を学びの場として成長できる機会
大人たちの仕事も、「お盆」と呼ばれる8月13日~16日頃には多くの職場がお休みに。家族で親の実家に帰ったり、家族旅行に行ったりする家庭も増えます。家庭や地域で、普段学校ではできないさまざまな体験ができるのも、夏休みの教育的な意義だといえます。
多様な“体験”が非認知能力(自己肯定感やレジリエンスなど)を伸ばす
では、さまざまな体験をすることが、具体的にどのように子どもの成長につながるのでしょうか。
21世紀出生児縦断調査の分析によると、小学生の頃に、
- 体験活動(自然体験、社会体験、文化的体験)
- 読書
- お手伝い
- 異年齢の子どもや家族以外の大人と遊ぶ
といった体験を多くしていた子どもは、高校生になった時に、
- 自己肯定感(自尊感情)
- 外向性(自分のことを活発だと思う)
- レジリエンス(精神的な回復力:新しいことに興味を持つ、自分の感情を調整する、将来に対して前向き、など)
といった、いわゆる「非認知能力」の得点が高くなる傾向が見られたそうです。勉強だけではないさまざまな体験が、将来的に大きな成長につながるといえます。
(参照:文部科学省 令和2年度「体験活動等を通じた青少年自立支援プロジェクト」)
日本の夏休みにある課題と特徴
日本の学校は宿題が多い?それとも成長のチャンス?

ただし、夏休み中でも、日本の学校には「夏休みの宿題」があります。ドリルや日記などの「毎日やる課題」に加えて、自由なテーマで取り組む「自由研究」や、本を読んで感想を書く「読書感想文」などが出されるのが一般的です。
子どもが自由にテーマを決めて行う「自由研究」は、興味のあることをきっかけに学びを深められる可能性があります。「読書感想文」も、普段読書をあまりしない子どもにとっては、読書のきっかけに。主体的に取り組むことができれば、宿題も成長のチャンスです。
とはいえ、あまり机の上で宿題をやる時間が多いと、さまざまな体験に使える時間が減ってしまうという課題もあります。
塾や習い事で過密化するスケジュール
また、夏休み中に塾の夏期講習に通ったり、英語などの学習系習い事などを詰め込んだりして、スケジュールが過密になってしまう場合も。特に、中学校受験を目指して塾の夏期講習などに通う場合は、夏休みも一日中勉強することが求められます。
もちろん、目標を持って主体的に勉強に取り組むことは素晴らしいもの。ただ、「勉強」ばかりで予定が詰まりすぎていると、さまざまな体験をする機会が少なくなってしまうという課題があります。
海外と日本の夏休みの比較
一方、海外の夏休みは、日本と比べてどんな違いがあるのでしょうか。
欧米では、子どもの夏休みは日本よりかなり長く、2カ月間ほどあります。また、学校からの宿題はなく、各家庭で自由に過ごし方を決めます。
中国や台湾・香港などの東アジアでも、やはり1~2カ月と、日本より長めです。一方で、日本のように宿題を出されることが多く、夏休み中もしっかり勉強することが重視されているようです。
欧米や東アジアの夏休みが長いのは、9月が年度始まりなので、区切りとして長い休みにしやすいことがあります。
また、欧米の夏休みに宿題がない理由としては、「休暇中はしっかり休むべき」という考え方や、子どもの自主性を重視する方針などがあるようです。夏休みは親も長めの休暇を取って家族旅行へ行ったり、サマーキャンプやサマープログラムなどに参加させたりして、自然体験をはじめとするさまざまな体験をさせるのが一般的です。
小学生におすすめ!夏休みの過ごし方11選
勉強ももちろん大切ですが、非認知能力を伸ばすさまざまな体験も大切。先述の、体験と非認知能力の調査を参考に、小学生の非認知能力が伸びるおすすめの夏休みの過ごし方をご紹介します。
1. 海や山などでの自然体験

海水浴、マリンスポーツ、キャンプ、川遊びなどの自然体験は、チャレンジの宝庫。自然の中で思いっきり遊ぶ体験は、主に自尊感情や外向性をアップさせることが、調査からわかっています。
2. 職業体験や工場見学でキャリア教育
鉄道やホテルなど、夏休みに職業体験プログラムを実施している企業が増えています。工場見学も、子どもが興味を持った商品や仕事を知るチャンス。こうした社会体験をした子どもは、「勉強・授業が楽しい」という気持ちを持ちやすいそうです。
3. 地域のボランティアに参加
夏休みは、地域で小学生でも参加できるボランティア体験プログラムを実施していることも。地域でのボランティアは、貴重な社会体験になることはもちろん、多様な人とも触れ合いや、地域への愛着にもつながります。
4. 音楽・演劇・伝統芸能の鑑賞・体験
夏休みは、子どもも楽しめる音楽コンサートや演劇などの開催も増えます。日本の伝統芸能では、子ども向けの「落語」もおすすめ。こうした文化的体験は、新しいことに持つ、将来に対して前向きになるなど、すべての非認知能力によい影響を与えることがわかっています。
5. 動物園・水族館・美術館・科学館・博物館で楽しく学ぶ

動物園や水族館でさまざまな生き物を実際に見たり、美術館でアートに触れたり、科学館や博物館などで体験的に学ぶことも、文化的体験です。楽しみながら知識を増やせる上に、すべての非認知能力を伸ばすことにつながります。
6. 家族でライブスポーツ観戦
野球、サッカー、バスケットボールなど、スポーツの試合を観戦するのも、非認知能力をアップしてくれる文化的体験のひとつ。また、テレビやオンラインではなく「生」で観戦することで、よりストレス値が下がり幸福度が上がるという研究もあります。
7. 実家に帰省して祖父母やいとこに会う
異年齢の子どもや家族以外の大人など、多様な相手と遊ぶ機会が多いと、自尊感情や外向性などに良い影響があることがわかっています。家族で実家に帰省して、祖父母やいとこに会うというのも、非認知能力が育つ立派な体験です。
8. お手伝いや家庭内の役割を担う
お手伝いを多くすることによって、自尊感情や外向性、精神的な回復力、学びへの前向きさなど、全ての意識に良い影響が見られることがわかっています。子どもの役割を決めて、継続的に担えたら理想です。
9. 好きな本を選んで読書をする
読書も、非認知能力が伸びる体験のひとつ。読書をたくさんする子どもは、新しいことに興味を持つ、自分の感情を調整する、将来や学びに対して前向きになるといった傾向があるそうです。涼しい図書館で、自分の好きな本を思いっきり楽しむのも夏休みの醍醐味です。
10. 興味のあるサマーキャンプ・サマープログラムに参加する
日本でも、近年はさまざまな企業や団体が小学生向けのサマーキャンプやサマープログラムを実施しています。自然体験、科学、農業、英語、伝統芸能など、ジャンルもさまざま。体験の内容はもちろん、子どもだけで新しいことに参加する経験は、大きな成長につながるはずです。
11. 自分が好きなことに主体的に取り組む

何よりも非認知能力をアップさせてくれるのは、自分自身が好きなことに、自分から主体的に取り組むこと。
上記に挙げたことに関わらず、子どもが興味を持ったことややってみたいということがあれば、ぜひサポートしてあげましょう。
夏休みを“成長の季節”に変える過ごし方を
夏休みは、さまざまな体験を通して非認知能力を伸ばし、「生きる力」を育む絶好の機会。親も一緒に体験できるものは、親子で学び合うこともおすすめです。
ただし、どんな体験にせよ、大人が「やらせる」のではなく、子どもが主体的に「やろう」という気持ちで取り組むことが最も大切。ぜひ、子ども自身が興味を持ったものからチャレンジしてみてくださいね。
文:征矢里沙(せいやりさ)
非認知能力を育てるウェビーイング教育雑誌『FQ Kids』編集長。慶應義塾大学総合政策学部にて、多様な教育のあり方を研究。株式会社リクルートを経て「NPO法人いきはぐ」を立ち上げ、「生きる力をはぐくむ」をテーマに全国約100ヶ所以上の学校・園を取材。「生きる力をはぐくむ教育研究家」として、非認知能力を育てる多様な教育に関する編集・執筆・講演等の活動を行う。
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