【日本の伝統工芸】石を使った代表的な工芸品一覧。歴史、有名な産地など

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日本庭園や神社仏閣を訪れたとき、景色の中で静かに佇む石灯籠や狛犬など、職人の手によって形づくられた美しい石の工芸品を目にしたことはありませんか。それらはただの装飾ではなく、自然との調和や祈りの心を表現した、日本独自の伝統文化の結晶です。

日本各地には、長い歴史の中で石を巧みに加工してきた地域があり、経済産業大臣が指定する伝統的工芸品の中にも、石を素材とする工芸がいくつか存在します。

本記事では、そうした石を使った代表的な伝統工芸品の歴史や特徴、有名な産地、観光スポット、自宅での楽しみ方までを幅広く紹介。石の文化が育んだ日本の美意識と、職人の技の奥深さに迫ります。

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日本の「石の工芸品」とは?日本庭園や神社仏閣にも息づく伝統

日本庭園 石 灯籠

石を素材として形づくられる日本の工芸は、石灯籠や石塔、狛犬など、私たちの暮らしや信仰と深く結びついてきました。屋外で長く使われるため、石には耐久性・耐水性・加工のしやすさが求められます。

現在、経済産業大臣が指定する伝統的工芸品の中にも、こうした石を用いたものが存在し、たとえば愛知県の「岡崎石工品」や宮城県の「伊達冠石工芸品」がその代表です。

日本における石の工芸の歴史

日本庭園 家屋 石 灯籠

日本における石の加工文化は、旧石器時代の石器に始まり、縄文時代には装飾品や祭祀具へと発展しました。

弥生時代には稲作に関連する石包丁、古墳時代には石棺や石製の副葬品が見られるなど、生活と信仰の両面で石は重要な素材でした。

本格的な「石の工芸」としての発展は、仏教が伝来した飛鳥時代以降といわれています。寺院の建立とともに、仏像台座や石塔、石灯籠などの制作が盛んになり、平安時代には庭園文化の広がりとともに装飾的要素としての石細工が発展しました。

日本庭園 家屋 石

江戸時代に入ると、武家や町人の庭園文化が成熟し、石灯籠や手水鉢などが庶民にも親しまれるようになります。明治以降は洋風建築の普及により、西洋風の石彫や記念碑など新しい表現が加わり、石の工芸は時代とともに形を変えながら、今も各地で受け継がれています。

日本庭園や神社仏閣を彩るさまざまな石工品

石灯籠

石灯篭 日本

仏教の伝来時に仏様に供える燈明として使用されていた石灯籠。宝珠(ほうじゅ/九輪)、笠、火袋(ひぶくろ)、受(中台)、柱(竿)、地輪(下台)の6つの部分で構成され、中央の火袋に灯りをともします。日本への伝来以降は寺社をはじめ、貴族や上級武士、裕福な町民の庭園などにも置かれるようになりました。

代表的なタイプだけでも「立灯籠」「雪見灯籠」「置灯籠」「活込灯籠」などがあり、さらにそれぞれの型に細かい分類があります。たとえば立灯籠の代表的なひとつが春日型で、背の高い円柱の上に六角形の笠や火袋を載せた形状をしています。奈良・春日大社に多く見られることから、その名が付けられました。

狛犬

日本 狛犬

神社の参道や拝殿の前などに一対で設置される石像で、社殿を守る「守護獣」として古くから親しまれています。起源は古代ペルシャやインド、中国を経て日本に伝わった獅子像とされ、平安時代には宮中の魔除けとして木製のものが置かれていました。のちに石造化され、鎌倉時代以降は各地の神社に普及していきます。

左右の狛犬には「阿(あ)」と「吽(うん)」の形があり、口を開けた阿形は始まりを、口を閉じた吽形は終わりを象徴しています。多くは獅子に似た姿ですが、角のある方を「狛犬」、角のない方を「獅子」と呼び分けるのが本来の形です。現在では魔除けや厄除けの象徴として、神社のほか庭園や門前を飾る装飾としても親しまれています。

石塔(せきとう)

日本 石塔

仏教の伝来とともに日本へ伝わった供養塔で、故人の冥福や祈りの象徴として建てられたものです。古代インドのストゥーパ(仏舎利塔)を起源とし、日本では奈良時代以降に石材で造られるようになりました。

代表的な形式には、四角形の台座に球体や塔身を積み重ねた「五輪塔」や、上部に相輪を備えた優美な「宝篋印塔(ほうきょういんとう)」などがあります。鎌倉時代から室町時代にかけてその形が洗練され、寺院や墓所だけでなく、庭園の景観要素としても用いられました。現在では、記念碑や祈念塔としても建てられ、日本の石造美術を代表する存在となっています。

飛び石

日本 庭園 飛び石

日本庭園に設けられた通路で、土を踏まずに歩けるよう配置された石。安土桃山時代に茶庭(露地)で使われ始め、江戸時代にはさまざまな庭園様式に採用されました。雨の日でも履物を汚さずに歩ける利点があり、庭園の景観に動きを与える要素としても重要です。

※茶庭(ちゃてい):茶室のある庭園。露地(ろじ)ともいう。

石橋

日本 庭園 石橋
©石川県観光連盟

石橋は、池泉回遊式庭園などでよく見られ、静かな水面に映る姿が風景に趣を添えます。形状はさまざまで、緩やかに弧を描く「反橋(そりばし)」や、平らな切石を並べた「平橋(ひらばし)」などがあります。

安土桃山時代には茶人・千利休の美意識とともに、質素で自然な石橋が茶庭に取り入れられ、江戸時代には装飾性の高い橋も登場しました。現代の庭園でも、飛び石と同じく実用性と景観美を兼ね備えた要素として、多くの庭に欠かせない存在です。

つくばい ・手水鉢

日本 庭園 つくばい 手水鉢

茶道で茶室に入る前に手や口を清めるための、石でできた手水鉢(ちょうずばち)。常に清らかな水が注ぎ込まれ、鉢の中に静かに水がたたえられています。その手水鉢など一連の設備全体を「つくばい」と呼びます。

本来は茶室のある庭に設けられたものですが、その落ち着いた佇まいから、現代では庭園の装飾や水音を楽しむ要素としても広く取り入れられています。

日本の伝統的工芸品に指定されている石工品

古くから日本各地で石を用いた工芸が行われてきましたが、2025年現在、経済産業大臣が伝統的工芸品として指定している「石を素材とした工芸」は全国で4産地のみです。

ここでは、それぞれの地域で受け継がれてきた代表的な石の工芸を紹介します。

京都|京石工芸品 (きょういしこうげいひん)

京都で生まれた石の工芸「京石工芸品」は、1979年(昭和54年)に伝統的工芸品に指定されました。その歴史は平安時代にまでさかのぼり、仏教の広まりとともに寺院や庭園の造営が盛んになったことを背景に発展しました。

京都市の北東、比叡山の麓に位置する白川地域では「白川石」と呼ばれる良質な花崗岩が採掘され、古くから石塔や石灯籠の素材として重宝されてきました。京都が長く政治・文化の中心であったこともあり、洗練された石の造形技術が発達。主な製品には、石灯籠、手水鉢、石塔、彫刻、庭園用の石細工などがあります。

製作では、原石の選定から切削、彫刻、仕上げまでを一人の石工が一貫して行うのが特徴です。この丁寧な工程によって生み出される京石工芸品は、京都の庭園文化を支える重要な要素であり、自然と人の調和を象徴する工芸として今も高く評価されています。

鳥取県・島根県|出雲石燈ろう(いずもいしどうろう)

鳥取県境港市や島根県松江市・出雲市を中心に作られる出雲石燈ろうは、1982年に「島根県ふるさと伝統的工芸品」に指定された石の工芸です。

古くから寺院や庭園で灯明用に使われてきましたが、現在のような形に発展したのは江戸時代。松江藩主が、松江市宍道町の来待(きまち)地区周辺で採れる来待石(きまちいし)の品質を高く評価し、藩の保護下で城下の職人だけに加工を許可したことがきっかけでした。

その際、来待石の他藩への搬出を禁じたため、「御止石(おとめいし)」とも呼ばれました。

来待石は粒子が細かく柔らかいため加工がしやすく、さらに耐熱性・耐寒性に優れ、風化しにくいのが特徴です。加えて表面に苔が生えやすく、短期間で自然の風景に溶け込む点も魅力のひとつです。

出雲石燈ろうの優雅な形は、茶庭や日本庭園を引き立てるだけでなく、現在では芸術的な石彫としても評価されており、欧米をはじめ海外でもガーデンオブジェや景観材として人気を集めています。

茨城|真壁石燈籠 (まかべいしどうろう)

真壁石燈籠は、茨城県桜川市真壁町を中心に製造される石工品です。この地域で石工品の生産が盛んに行われるようになったのは、桜川市真壁町を中心とする筑波山地域 が良質の真壁石や稲田石とよばれる花崗岩が産出されてきたから。その質の良さが認められ、2024年には国際地質科学連合(IUGS)から世界のヘリテージストーン(天然石材遺産)のひとつに認定 されています。

その真壁石を使った真壁石燈籠の起源は室町時代末期頃で、最大の特徴は、白っぽく硬い石を活かした繊細で美しい彫刻、そして、重厚感と柔らかさをあわせ持つ独特の風合いです。この石燈籠に苔が付くと自然を模した日本庭園や寺社の庭が一層、風情のある風景になります。

このような石燈籠を作り上げるための伝統的技術や技法は18もあり、伝統的な道具も含め、徒弟制度により脈々と名工たちに受け継がれてきました。その継承した技により真壁石燈籠は、今も変わりなく優雅な佇まいで日本庭園や寺社を彩っています。

愛知|岡崎石工品 (おかざきせっこうひん)

愛知県岡崎市で作られる岡崎石工品は、1590年に河内・和泉より招かれ、岡崎城下の整備に従事した石工たちによってその技術がもたらされました。春日型燈籠や六角雪見型といった岡崎石工品の代表的な様式を作り上げたのもこの石工たちです。主な製品のひとつである石燈籠の特徴は、直線や曲線が交差して生まれるシンプルな美しさ。加えて、彫刻による繊細で優美な装飾が施されている点もこの製品ならではの魅力です。

そんな岡崎石工品に使用する原石は、日本有数の石材産地のひとつである岡崎で採れる岡崎花崗岩をはじめ、同じ品質の石であることが決められています。また、製作時の技法や道具も型造りには伝統工具の「のみ」、彫りは「びしやん」といった具合に定められた工具を使用しなければなりません。

そうして仕上げられた岡崎石工品は、神社仏閣の燈明や日本庭園の装飾、夜道を照らす常夜燈として設置され、日本の景観美を支える重要な役割を果たしてきました。現在も和風建築や住宅の庭を彩る庭燈籠、鉢物などが盛んに作られています。

石の工芸を楽しめる観光スポット

日本各地には、長い歴史の中で受け継がれてきた石の工芸を今に伝える寺社や庭園が数多くあります。

京都|龍安寺

京都の龍安寺は、世界文化遺産にも登録されている枯山水庭園で知られています。境内には、茶室「蔵六庵(ぞうろくあん)」に据えられた名作「吾唯足知(われただたるをしる)の蹲踞(つくばい)」の精密な複製が設置されており、石の造形美とともに禅の精神を感じることができます。

島根|神魂神社(かもすじんじゃ)

島根県松江市にある神魂神社(かもすじんじゃ)は、日本最古の大社造として国宝に指定された本殿をもつ由緒ある神社です。周辺の松江・出雲地域では、来待石(きまちいし)で作られた出雲石燈ろうを随所で目にすることができ、土地の石文化を身近に感じられます。

東京|迎賓館赤坂離宮

茨城県産の真壁石(まかべいし)は、2020年に東アジアで初めてヘリテージストーン(地質遺産石材)に認定されました。東京の迎賓館赤坂離宮の外壁にもこの真壁石が使用されており、その優れた質感と輝きが建築美を支えています。石材そのものの魅力を体感したい人は、真壁地域の採石場や石材展示施設も訪れてみるとよいでしょう。

旅の思い出に、自宅でも楽しめる石の工芸品

広い庭がなくても、日本庭園のような落ち着いた雰囲気を自宅で楽しむことができます。池や築山をつくるのは難しくても、小さな石を敷き詰めたり、コンパクトな雪見灯籠(ゆきみどうろう)を飾ったりするだけで、ベランダや玄関先にも和の趣を添えられます。

また、手のひらサイズの石の置物や玉石(ぎょくせき)を組み合わせれば、室内の一角にミニチュアの枯山水を再現することも可能です。白砂や砂利の上に石を配置し、波紋を描くだけでも心が落ち着く空間になります。

最近では、インテリアショップやオンラインストアで卓上サイズの「枯山水セット」や「石灯籠のミニチュア」も販売されています。本格的な日本庭園を参考に、自分だけの小さな石の庭をつくってみてはいかがでしょうか。

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