【FUN!日本語】「桜」も「紅葉」も「銀杏」もお肉だった!?全く別の意味を持つ日本語の言葉~植物・お花編~

―これはとある日に、編集部が夜ご飯を物色している時に起きた出来事…

|A:FUN! JAPAN新米編集員(来日歴1年)|B:FUN! JAPANベテラン日本人スタッフ|

A:なんか今日はお肉を食べたい気分だなぁ

B:(目の前にある居酒屋の看板を指さしながら)ほら見て、今日の日替わりメニューは桜肉の定食だってよ。

A:えっ、日本人は桜の花を食べるの?

もちろん、桜の花を食べるわけではないー

奥が深い日本語の世界では、たとえ日常的に聞きなれた単語でも、全く別の意味を持つことが珍しくない。世界的に通じる「桜(さくら)」は多くの場合は「お花」を指すが、実は「肉」を表すこともできるのだ。

新米編集員Aのように、日本語初心者なら二つ以上の意味を持つ多義語を勘違いしてしまうことは一度はあるのではないだろうか。日本語猛勉強中のAさんのためにも、日本語に興味津々なFUN! JAPAN読者のためにも、今日はちょっと意外な意味を持つ日本語をご紹介する。

肉食が禁止されていた時代。「桜」も「紅葉」もお肉だった!?

新米編集員Aはその後、オフィスに戻ってすぐさまパソコンを開き「桜肉」の意味を調べてみた。

四季を代表する桜(さくら)と紅葉(もみじ)。植物を指すのが一般的だが、意外にもお肉の「隠語」としても使われていることが判明した。

江戸時代の絵巻物

「隠語」とは、仲間同士でしか通じない言葉や言い回しのこと。日本では古くから肉食(にくじき)の習慣はあったものの、飛鳥時代675年に天武天皇が仏教の殺生禁止の戒律を受けて、牛、馬、犬、猿、鶏の肉食を禁止する「肉食禁止令の詔」を出して以来、平安時代(794〜1180年)・鎌倉時代(1180〜1336年)と肉食禁止が続いた。

さらに、封建社会の江戸時代(1600〜1868年)にも、江戸幕府5代将軍・徳川綱吉が「生類憐みの令」を発令して肉食を禁止しており、日本では約1,200年間にわたって、断続的に肉食を避ける文化が続いたのだ。

仏教思想が強かった江戸時代に、肉を提供するお店は肉食禁止令の対策として、お肉を花や植物の名前を使って客を呼び込むようになり、こっそりと肉を提供していた。庶民も処罰の対象にならないよう、植物であると言い換えながら購入していたという。お肉に関する隠語の由来はそれぞれ諸説あるが、一般的とされるルーツは下記の通りだ。

※隠語として使う際に、基本的に漢字ではなく、ひらがな・カタカナで表現することが一般的。

【馬肉】<さくら / Sa-ku-ra>

  • 馬肉を切った時、赤身部分が鮮やかな「朱赤色・さくら色」であることから
  • 馬が冬の間に草や穀類をたくさん食べ、桜の咲く時期の馬肉が脂が乗っていて美しいことから
  • 幕府の直轄の牧場が佐倉地域周辺(現在の千葉県北部)にあり、「馬と言えば佐倉」だったことから

【鹿肉】<もみじ / Mo-mi-ji>


  • 花札(日本のかるたの一種)において、紅葉と鹿が一緒に10月『鹿に紅葉』の絵柄で描かれているから

【鴨肉】<いちょう / I-cho-u>

  • 銀杏の葉が鴨の足に似ているから

このように、もし居酒屋で「さくら」や「もみじ」を見かけたら、「お花・葉っぱを食べるの?」と驚かないでくださいね(笑)

「さくら=馬肉」と「もみじ=鹿肉」のように、植物の別名で呼ばれる肉はほかにもたくさんあります。

【猪肉】<ボタン / Bo-tan>

  • 猪肉を切って皿に盛り付けるとき、「牡丹(ぼたん)の花」のように飾っていたから

ちなみに江戸時代後期には、獣肉の総称(主に猪肉)を「山鯨(くじら)」と呼んでいた。鯨は当時、「魚」として扱われており、食べても問題はない食材だったから。

【鶏肉】<かしわ / Ka-shi-wa>

  • 鶏の肉の色が、茶色くなった柏の葉の色に似ていたことから 。
  • 鶏の羽ばたきが、神社で手のひらを打ち合わせて鳴らす「かしわ手」を打つ姿に似ていることから。

あわせて押さえておきたい知識①:牛肉と豚肉の隠語は?

こうして分かる人にだけ通じる「隠語」は、江戸時代後にも慣用的に使われ、現代まで受け継がれている。

…あれ?馬肉・鹿肉・鶏肉の隠語あるけれど、牛肉や豚肉の隠語はないの?

と思うそこのあなた、ブラボーです!

実は、江戸時代には牛、豚はほとんど食べられていなかったため、別の呼び名をつける必要はなかったのだ。牛や豚を食べる習慣が普及し始めたのは、明治時代(1868〜1912年)以降。肉を堂々と食べられるようになったので、こっそり呼ぶための隠語も必要なかったのだ。

あわせて押さえておきたい知識②:お肉は「薬」だった!?

江戸時代の「生類憐れみの令」により、肉料理屋はビジネスを変更せざるを得なかった。そこで店主たちが思いついたのは、「薬屋」だった。

当時の薬屋では、滋養強壮に効くということで獣肉を販売していた。薬屋で売っている肉まで禁じると、人々の健康に影響を与えることから、薬屋での肉の販売は幕府に黙認されていたという。

日本語レベルアップの道はまだまだ続く…

上記で紹介した隠語のほか、猛毒に当たって死ぬことから「テッポウ」と呼ばれるフグや、「月に住んでいる」ということから「月夜(げつよ)」と名付けられたウサギなど、異なる呼び方を持つお肉はたくさんある。

ここまで記事を読んだあなたも、新米編集員Aと同様に日本語が少しレベルアップしたのでは?

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